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大分地方裁判所 平成5年(ワ)652号 判決 1994年7月26日

原告

田上裕子

ほか二名

被告

株式会社ウイングエクスプレス

ほか一名

主文

一  被告らは各自、

1  原告田上裕子に対し、金四六九万六八二七円及び内金四二九万六八二七円に対する平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員

2  原告田上愛理及び同田上隆之に対し、各金二三四万八四一三円及び内金二一四万八四一三円に対する平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは各自、

一  原告田上裕子に対し、金一九二二万七三七三円及び内金一七七二万七三七三円に対する平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員

二  原告田上愛理及び同田上隆之に対し、各金八九一万三六八六円及び内金八四一万三六八六円に対する平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員

をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、被告平田修一(以下「被告平田」という。)運転の普通貨物自動車との交通事故によつて死亡した亡田上健二(以下「亡健二」という。)の相続人である原告らが、被告平田に対し民法七〇九条に基づく損害賠償を、右自動車の所有者である被告株式会社ウイングエクスプレス(旧商号は九州航空久留米株式会社、以下「被告会社」という。)に対し自賠法三条に基づく損害賠償をそれぞれ求めた事案である。

一  前提となる事実

1(事故の発生)

亡健二は、次の事故によつて、脳挫傷の傷害を受け、平成二年一二月一五日午後二時三三分、大分県別府市にあるフエニツクス脳神経外科病院で死亡した(以下「本件事故」という。)。

(1)  日時 平成二年一二月一五日午前六時二〇分ころ

(2)  場所 大分県別府市弓ケ浜町一番二三号九幸呉服店先市道富士見通り交差点路上(以下「本件事故現場」という。)

(3)  加害車両 被告平田運転の普通貨物自動車(登録番号・久留米八八あ四八二、以下「加害車両」という。)

(4)  事故の状況 被告平田は、右日時に、加害車両を運転し、本件事故現場を西(野口中町方面)から東(的ケ浜公園方面)に道路左側を進行中、本件事故現場交差点内に北(京町方面)から南(南的ケ浜町方面)に向かつて転倒・滑走してきた亡健二運転の原動機付自転車(登録番号・別府市か一三九二)と加害車両左側部とを衝突させ、亡健二の頭部を加害車両の左後輪で轢過した。

【前段部分、(1)ないし(3)の各事実はいずれも当事者間に争いがなく、(4)の事実は甲一号証、甲二号証、被告平田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によつて認めることができる。】

2(被告会社の加害車両の所有等)

被告会社は、加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者である。

【当事者間に争いがない。】

3(原告らによる相続等)

原告田上裕子(以下「原告裕子」という。)は亡健二の妻であり、原告田上愛理(以下「原告愛理」という。)及び同田上隆之(以下「原告隆之」という。)はいずれも亡健二の未成年の子供であり、原告らは、法定相続分に従い、原告裕子が二分の一、原告愛理及び同隆之が各四分の一の割合で、亡健二の財産を相続した。

【当事者間に争いがない。】

二  主たる争点

本件の主たる争点は、次のとおりである。

1  本件事故について、被告平田に過失があつたかどうか。

【原告らは、本件事故は、被告平田が本件事故現場を制限時速を超える時速五四キロメートル以上の速度で進行するとともに、前方及び左方の安全確認義務を怠つたこと、左前輪に亡健二のヘルメツトが接触した後、同被告にはハンドルを右に切つて事故を回避すべき注意義務があつたのに、これを怠り、ハンドルを左に切つたため、亡健二を前輪と後輪との間に巻き込んだことによつて生じたものであり、被告平田には過失があると主張するのに対し、被告らは、本件事故は、亡健二が対面信号が赤色表示である交差点に向かつて高速で進行し、交差点手前の停止線付近でバランスを失つて滑走しながら交差点内に突入したために生じたもので、亡健二の一方的な過失によるものであり、被告平田に過失はなく、本件事故が加害車両に構造上の欠陥や機能上の障害があつたことに基づくものでないことも明らかであるから、被告らに損害賠償義務はないと主張して、これを争つている。】

2  仮に被告平田に過失があるとした場合、どの程度の割合の過失相殺が相当であるか。

【原告らは、本件事故について、亡健二にも四〇パーセントの過失があつたことを自認しているところ、被告らは、仮に被告平田に過失があつたとしても、九五パーセント以上の過失相殺がされるべきであると主張して、その割合を争つている。】

3  原告らに生じた損害額はいくらか。

第三主たる争点に対する判断

一  被告平田の過失の有無(争点1)について

1  前記認定事実のほか、甲一号証、甲二号証、被告平田本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(1) 亡健二は、原動機付自転車を運転して本件事故現場の交差点に差し掛かつた際、対面信号が赤色表示であつたにもかかわらず、交差点手前の停止線付近で転倒し、滑走した状態のまま交差点内に進入したこと(しかも、当時、本件事故現場付近は薄暗かつたにもかかわらず、亡健二の運転する原動機付自転車はライトを点灯していなかつた。)

(2) 被告平田は、加害車両を運転して本件事故現場の交差点に差し掛かつた際、その対面信号が青色表示となつたことから加速し、制限時速(時速四〇キロメートル)を超える速度で同交差点を通過しようとしたところ、進路左前方約七・三メートルの位置に低くて黒い物体(原動機付自転車に乗つた亡健二)が自車進路前方に進入してくるのを発見し、これを動物等が飛び出したのではないかと思いつつ、ハンドルを右に切つて右物体との衝突を回避しようとしたが、右物体が自車左前輪付近に衝突したこと(なお、甲一号証によれば、加害車両のタイヤスリツプ痕は約一四・四メートルであつたこと、本件事故現場の道路はアスフアルト舗装され乾燥した状態であつたことが認められるから、加害車両の速度は時速五〇キロメートルを超えていたものを推認するのが相当である。)

(3) 被告平田は、その後、右物体が自車と接触したと感じて急ブレーキを掛けたものの、そのまま進行すれば、自車が対向車線に出て対向車両(ただし、実際には進行中の対向車両はなかつた。)に迷惑を掛けることになると考え、ハンドルを左に切つて自車を進行させた後、降車して右物体を確認し、自車左後輪付近に頭部が挟まれた状態の亡健二を発見して、はじめて右物体が人間であつたことを認識したこと

2  以上の事実に照らすと、本件事故の主たる原因は、亡健二が、対面信号が赤色表示であつたにもかかわらず、同人運転にかかる原動機付自転車とともに転倒・滑走した状態で交差点内に進入したことにあると認められるものの(この点において、亡健二に過失が認められる。)、被告平田にも、(1)本件事故現場の交差点を通過するに際して、制限時速を超える速度で進行するとともに、交差点左前方の安全確認を十分行わなかつたこと(甲一号証によれば、同被告が交差点左前方の安全確認を十分行つていたならば、より早い段階で亡健二を発見でき、事故回避のための有効な措置を構ずることができた可能性を否定できない。)、(2)交差点内に進入してきた亡健二を動物等が飛び出してきたものと軽信し、急ブレーキを掛けるなどの事故回避のための有効な措置を講じなかつたこと(被告平田本人尋問の結果中には、急ハンドルと急ブレーキを同時にすると、自車が横転する危険があつたとする部分があるが、その後、交差点内に進入してきた右物体(亡健二)と自車が衝突したことを感じた後には、ブレーキを掛けたとしていることに照らし、右供述はにわかに信用することができない。)、(3)右物体(亡健二)と自車が衝突したことを感じた後も、それが何であるかを確認することなく、動物等であると軽信し、ハンドルを左に切つて進行したこと(これにより亡健二を自車左後輪付近に巻き込んだ可能性も否定できない。)について、自動車運転の業務に従事する者として要求される注意義務を尽くさなかつた過失があるというべきである。

二  過失相殺(争点2)について

前記認定のとおり、本件事故については、被告平田にも過失があるというべきであるものの、亡健二にも重大な過失があり、双方の過失を対比すると、その過失割合は、被告平田が一割五分、亡健二が八割五分であると認めるのが相当である。

三  原告らの損害額(争点3)について

1  逸失利益

亡健二は、本件事故当時、満二四歳(昭和四一年三月一三日生)であり、妻である原告裕子及び同女との間の子供である原告愛理及び同隆之と同居して生活していた健康な男性であり、調理師として、大分市内や別府市内のホテルに勤務していたことが認められる(弁論の全趣旨)。

そうすると、亡健二は、本件事故に遭わなければ、その後六七歳まで四三年間は就労可能であり、右就労期間中、平成二年度の産業計・企業規模計・学歴計賃金センサスによる二四歳の男子労働者の年間給与額金二九三万八五〇〇円と同額の年収を得ることができたものと推認することができ、右全期間について生活として三〇パーセントを必要とするものとして、亡健二の逸失利益をライプニツツ方式で算出すると、次の計算式のとおり、金三六〇九万一〇三九円となる(一円未満は切捨て、以下同じ)。

(計算式)

293万8500円×(1-0.3)×17.5459=3609万1039円

2  慰謝料額(亡健二及び原告らの慰謝料額)

本件訴訟に現れた資料を総合勘案すると、亡健二の死亡による慰謝料(原告ら固有の慰謝料を含む。)は、金二〇〇〇万円と認めるのが相当である。

3  葬祭費用

甲三号証の一ないし五によると、原告らは、亡健二の葬祭費用として金一二〇万円を超える費用を支出したことが認められるが、本件事故と相当因果関係を有する葬祭費用は金一二〇万円と認めるのが相当である。

4  過失相殺

前記のとおり、本件事故については、亡健二にも八割五分の割合の過失があり、過失相殺すべきであるから、原告らが被告らに対して請求し得る金額は合計金八五九万三六五五円(原告裕子は金四二九万六八二七円、原告愛理及び同隆之は各金二一四万八四一三円)となる。

5  弁護士費用

本件事案の内容等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、金八〇万円(原告裕子は金四〇万円、原告愛理及び同隆之は各金二〇万円)と認めるのが相当である。

四  結論

以上の次第で、原告らの請求は、原告裕子については、金四六九万六八二七円及び内金四二九万六八二七円に対する不法行為の日である平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告愛理及び同隆之については、各金二三四万八四一三円及び内金二一四万八四一三円に対する不法行為の日である平成二年一二月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由がある。

(口頭弁論終結の日 平成六年七月二二日)

(裁判官 村田渉)

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